タイピングに年齢は関係ない
一本指入力だった50代がタッチタイピングを身につけるまで
「もう年齢的に、タッチタイピングを覚えるのは難しいですよね?」
パソコンを教えていると、そんな相談を受けることがあります。昔からパソコンに馴染みがある方の中には、「ブラインドタッチ」という呼び方のほうがしっくりくる、という方もいらっしゃるかもしれません。
確かに、若い頃からパソコンを使ってきた人と、50代、60代になってから初めて本格的に使う人では、最初のスタート地点は違います。
でも、これまで多くの初心者の方を見てきた私が感じるのは、タイピングができるようになるかどうかに、年齢だけで決まるような差はないということです。
今回は、実際に私が見てきた受講生の一人を例に、一本指でキーボードを打っていた50代の方が、どのようにタッチタイピングを身につけていったのかを紹介します。
もちろん、誰でも同じ期間で同じように上達するわけではありません。それでも、「今までパソコンを使ってこなかったから無理」と思っている人に、少しでも参考になればと思います。
パソコンを使う仕事をしたことがなかった
これまでパソコンを使う仕事をした経験はありませんでした。
自宅には古いノートパソコンがありましたが、ほとんど使っていません。インターネットにもつながっていませんでした。今のように、パソコンを使うことが当たり前になっている環境とは、かなり違います。
そして、キーボードを打つときは一本の指で、一文字ずつキーを探して入力するという状態でした。
一見すると、「これでは仕事でパソコンを使えるようになるまで、かなり時間がかかりそう」と思うかもしれません。私も、最初から「タッチタイピングを覚えましょう」と言っていたわけではありません。
一本指で入力する人には理由がある
一本指でキーボードを打つ人を見ると、「両手を使えばいいのに」と思うかもしれません。でも、初心者の方には、一本指で入力する理由があります。
私がこれまで見てきた一本指入力の方に共通していたのが、「違うキーに指が当たってしまうのが怖い」という感覚です。
キーボードにはたくさんのキーがあります。「このキーを押したいのに、隣のキーまで押してしまったらどうしよう」「間違った文字が入力されたらどうしよう」そんな不安があると、指を大きく動かすこと自体が怖くなります。
だから、一本の指でキーを一つずつ確認しながら押す。これは、単に「面倒だから一本指で打っている」のではありません。
本人にとっては、間違えないための安全な方法だったのです。
まず必要だったのは、タイピングの速さではなく、キーボードに対する恐怖心をなくすことでした。
タッチタイピング(ブラインドタッチ)の具体的な指の位置やホームポジションについては、こちらの基本解説でも詳しく紹介しています。
最初に教えたのは「ホームポジション」
そこで最初に教えたのが、キーボードのホームポジションです。キーボードの「F」と「J」には、小さな突起があります。これは、キーボードを見なくても指の位置を確認できるようにするための目印です。
人差し指をFとJに置く。そこから、それぞれの指が担当するキーを覚えていきます。ここで大切なのは、「絶対に違うキーに触れてはいけない」と考えないことです。
むしろ、「指が隣のキーに触れても大丈夫」と伝えました。なぜなら、キーに触れること自体が怖くなくなれば、指を動かすことができるようになるからです。
ホームポジションは、速く打つためだけのものではありません。
初心者にとっては、「手の位置が分からなくなっても、FとJに戻ればいい」という安心感を作るためでもあります。
まずは「あいうえお」から
自宅にあるという古いノートパソコンを使っての練習方法をお話ししました。
インターネットにはつながっていません。これは一見すると不便なようですが、最初の練習にはむしろ都合のいい部分もありました。
Webサイトを見たり、メールを使ったりする必要がなく、文字を入力する練習だけに集中できたからです。
そこで使ったのが、Windowsに入っている「メモ帳」です。特別なタイピングソフトを用意する必要はありません。
まずは、あいうえおから始めました。次に、かきくけこ、さしすせそというように、一行ずつ練習します。あ行から始めて、か行、さ行……。そして、わ行まで。最初から文章を打つことはしません。
まずは、自分の指を使って、文字を入力するという経験を積んでもらいました。
間違えてもいい。手元を見て直していい
もしも、間違った文字を入力してしまったら、手元を見てBackspaceキーで消していい。そう伝えました。
初心者にとっては、「間違えたらどうしよう」という気持ちが、かなり大きな壁になります。でも、間違える → Backspaceで消す → 正しい文字を入力するという経験を繰り返していると、少しずつ考え方が変わってきます。「間違えても大丈夫なんだ」と思えるようになるのです。
一行打ち終わったら、Enterキーを押します。ここでは、「この行の入力はここまで」と区切る感覚を身につけてもらいます。
「あいうえお」を打ったらEnter。
「かきくけこ」を打ったらEnter。
こうして一行ずつ練習していきます。
最初から全部のキーを覚えなくていい
タッチタイピングを教えるときに、初心者が圧倒されやすいのが、「こんなにたくさんのキーを全部覚えないといけないの?」ということです。
そこで、最初からすべてのキーを覚えようとはしませんでした。
まずは、A~Zのアルファベットキーに絞る。
これだけでも、覚えることはかなり減ります。全部で26個で済むからです。
(ぱそトレ!方式であれば、さらに減り16文字程度になります)
そして、少し慣れてきたら、普段の日本語入力でよく使うローマ字のキーを意識してもらいます。例えば、「あ」ならA、「か」ならKとA、「さ」ならSとA。というように、ローマ字入力で実際によく使うキーから覚えていきます。
すべてのキーを完璧に覚えてから次へ進むのではありません。よく使うキーから少しずつ使えるようにする。
このほうが、初心者にとっては取り組みやすくなります。
「手元を見ない」が怖くなくなってくる
練習を続けていると、少しずつ変化が出てきます。不安になると、手元のキーボードを見ていました。それが、「このあたりだったな」と、指が自然に動くようになってきます。
もちろん、最初から完璧ではありません。間違えることもあります。でも、ここで大きな変化が起きます。間違えても、直せばいい。という考え方が身についてくるのです。
すると、「間違ったキーを押すのが怖い」という気持ちが、少しずつなくなっていきます。これは、タイピングが上達したというだけではありません。キーボードを怖がらなくなったということです。
私は、初心者のタイピングでは、この変化がとても大切だと思っています。
そこからタイピング練習へ
ここまで来ると、ようやく本格的なタイピング練習に進めます。スクール内ではもちろん、インターネットを使って練習できる環境では、さまざまなタイピング練習サイトも利用しました。
ここで初めて、「もっと速く打ってみよう」という練習ができるようになります。
ただし、いきなり速さを求めるわけではありません。
まずは正しく入力する。
正確に。
指の位置を確認する。
そして、少しずつ手元を見る回数を減らしていく。
そうやって練習を重ねることで、徐々にタイピングに慣れていきました。
「できない」から始めてもいい
誰もが最初からタッチタイピングができたわけではありません。
すべて最初は「できない」からスタートです。
- キーボードに触れるのが怖い
- ↓
- ホームポジションを知る
- ↓
- 「間違えてもいい」と分かる
- ↓
- A~Zのキーを少しずつ覚える
- ↓
- よく使うローマ字のキーを覚える
- ↓
- 手元を見なくても入力できる文字が増える
- ↓
- タイピング練習で慣れていく
タイピングに「年齢」は関係ない
もちろん、年齢によって覚える速さに違いが出ることはあります。若い人と同じ速度で覚えられるとは限りません。でも、「年だからタッチタイピングは無理」とは限りません。
大切なのは、年齢よりも、自分ができるところから始めること。
そして、できないことを一度に全部できるようにしようとしないこと。だと思います。
この受講生の場合も、最初から「タッチタイピングを完成させる」というところだけを見ていたら、かなり大変だったでしょう。
でも、「今日はあいうえおを入力する」
「次はか行までやってみる」
「このキーを覚えてみる」というように、小さなところから進めていきました。
「分からなくなったらホームポジションに戻ればいい」という安心感。この感覚が身についてもれば、少しずつ指を動かせるようになります。
そして、指を動かせるようになれば、そこから速度を上げる練習ができます。
パソコン初心者だった人が、仕事で使えるようになるまで
タイピングができるようになることは、それだけでゴールではありません。
本当に大切なのは、「パソコンを使って趣味や仕事につながるようになること」です。
タイピングができるようになれば、好きなゲームで友達とスムーズにリアルタイムで会話したり、Wordで文章を入力したり、Excelで表を作ったり、メールを作成したり、AIとの対話で調べ物が楽になったりと、できることが増えていきます。
最初は一本指でキーボードを探していた人でも、
というところまで、少しずつ つながっていきます。でも、本人が一つずつやっていたことは、決して特別なことではありません。入力する。もう一度入力する。その繰り返しです。
「いまさらもう遅い」と思わなくていい
もし今、「パソコンを使ったことがない」「キーボードを一本指でしか打てない」「タッチタイピングなんて無理」と思っている人がいたら、私はまず、「まだできないだけですよ」と伝えたいです。
できないことと、できないまま終わることは違います。
年齢が50代だから、60代だからという理由だけで、タイピングを諦める必要はありません。
もちろん、練習には時間がかかるかもしれません。
若い人より覚えるのに時間が必要なこともあるでしょう。
それでも、自分のペースで、一つずつできることを増やしていけばいい。私はこれまで、そんな初心者の方を実際にたくさん見てきました。
だからこそ、タイピングを始めるのに「遅すぎる年齢」はないと考えています。
まとめ
- ホームポジションを覚える
- キーボードに触れることへの恐怖心をなくす
- 「あいうえお」から一行ずつ練習する
- A~Zのキーから少しずつ覚える
- よく使うローマ字のキーを意識する
- 手元を見なくても入力できるキーを増やす
- 慣れてきたらタイピング練習を行う
タイピングは、最初から速く打てる必要はありません。「間違えても大丈夫」と思えること。そして、「キーボードは怖くない」と思えること。それが、最初の一歩なのだと思います。
もし今、一本指でキーボードを打っているとしても、そこから始めればいいのです。タイピングを始めるのに、遅すぎる年齢はありません。